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プレゼンテーション・話し方分析 [17]

高津和彦インタビュー
「昇進・昇給のカギはプレゼン力」

プレゼン力がものを言うのは、コンペの場だけではない。
就職・昇進・昇給…ビジネス成功のチャンスに、プレゼン力は必須スキル。

――日本のビジネス事情は大きく変化していますが、今後どうなっていくと思いますか?

派遣切りに代表されるように、企業から切り捨てられる人たちのニュースが注目を集めていますね。
一方で、転職や起業で成功している人もいる。企業内で、昔ならありえなかった抜擢で活躍する人もいる。
格差が大きくなってきているのは、誰もが感じているところでしょう。

そして、僕の予想では今後もこの傾向はますます強まっていくと思います。
終身雇用制が崩壊して、同じ会社でずっと働き続けるのがあたりまえだなんて、もう誰も思っていないし、企業としても新入社員から育てあげて定年まで雇うつもりもない。
欧米のスタイルにどんどん近づいてきたな、と感じています。

――欧米スタイルになるとはどういうことですか?

日本のこれまでの社会と、いちばん大きく違うのは評価の方法でしょう。
終身雇用制での昇進・昇給の評価というのは、上司が見た「日頃の働きぶり」です。そして、その基準は「可」であるかどうか。
ずっと雇い続けることがもう前提ですから、ダメじゃないかどうかを見られる。しかも、一方的にです。

対して欧米の場合は、昇進・昇給は勤続年数に比例しない。
そして、自分でアピールしなければ誰も評価してくれないし、そのアピール内容の審査基準は企業に貢献できるかどうか。

つまり、「自分を雇えば、会社にこういうメリットがあります」と訴えられなくては、昇進・昇給もないし、仕事の継続も危ういんです。
厳しいようですが、逆に言えば、ちゃんとアピールできればチャンスが広がるということです。

――日本でも、自分をアピールできなければ評価されなくなるんでしょうか?

そうです。実際、そういうシステムは増えているし、官庁でもそういう取り組みを始めている。
例えば大阪府では、職員昇任試験で択一式の筆記試験を廃止して、プレゼンテーション能力をみる試験を導入することになりました。
戦略論的な思考、説得する能力、将来的に管理職となる資質、などを見るのが狙いです。
一般教養の筆記考査を廃止して、面接官の前で「税収アップの方法」や「大阪の魅力を高める」などのテーマでプレゼンテーションを行う実技考査にしたんです。

自分自身や、自分の考え・企画をプレゼンできなくては生き残れない時代が来ているんですよ。
消費人口の減少・機械化・システムの効率化・外国人労働者の流入、など1人あたりの仕事量が今後少なくなることは目に見えている。
組織の一員であっても、仕事は与えられるのを待つものではなく、自分で見つける・作る・獲得する、そういうものになります。それにはやはり、「プレゼン力」なんですよ。

――プレゼンでうまく話せる人が、勝ち残れるんですね。

当たり前のことですが、すらすら上手に話せる口先だけの人はダメ。
いくら口がうまくても、プレゼンするだけの実力・結果がなくては。内容のないプレゼンなんて、すぐにわかってしまいますよ。

アピールする力は大事ですが、その大前提としてアピールする内容を持っていなくては。

なにも実績や結果などの直接的なものだけでなく、自分がいることで他の人の仕事がスムーズになるとかスキルを伸ばせるとかいうような貢献の仕方でもいいんです。
野球だって、グラウンドに出ている9人だけではやっていけないことぐらい、組織の上に立つ人間ならわかっています。でも、それを伝える技術がないと、評価につながらないこともまた事実。

同じ実力の2人のうち、評価されるのはプレゼン力を日頃から磨いていた人。
やるべきことをやり打つべき手を打った人と、何もせずぼんやりしていた人とでは、差がついて当然です。

――やはり頑張るからには、認められたいですね。

そうですね。
ここまで、認められるために大事なのは、プレゼン力と、プレゼンの内容だ、と言って来ました。
もうひとつ、大事なものがあるんです。それは、プレゼンの背景にある情熱ややる気。

査定されるのは過去-現在の結果だけではなく、あなたの今後の「伸びしろ(=向上の可能性)」が見られているんです。

例えばね、大リーグの投手が素晴らしい成績をあげたとしましょう。それを球団側にアピールする力もある。しかし、その投手が故障していて、来年以降は投げられそうになかったとしたら、契約は無理でしょう。

同じように、ビジネスでの査定も「来年・再来年、結果を出せそうか。5年後・10年後、企業の役にたっているか」という目線で見られていることを忘れないようにして下さい。若い方は特に!

――いま現在の結果や実績をアピールするだけではダメということですか?

ダメ、というより、不十分なんです。
既に出ている結果や実績なら、上の者も報告書や数字で把握できる。
なのに、なぜプレゼンか。なぜ直接、その人の話を聞くのか。
数字や報告書では、その人物の「伸びしろ」は見えてこないからです。

まず、自分の強み-実績の分析-それを踏まえて、自分はこれからこういうことができる、とアピールすることで、「こいつにこういう権限を与えたら業績があがりそうだな」とか、「こいつにならこのぐらいの給料を出してもいい」とかいうことになるわけです。

商品でのプレゼンで、商品特性やスペックの説明、これまでの現状や市場分析、その商品の使い方・売り方で起こる需要の予想、をアピールして「この商品に販促イベントをさせたら店の売上があがるだろう」とか、「これならこのぐらい仕入れて売場面積を割いてもいい」などと思わせるのと、基本的には同じです。

――自分の将来性を認めてもらえるようにプレゼンすればいいんですね。

将来性も含めた、企業への貢献度を訴えられればいいのですが、他にもアピールすべき点はあります。

これも、資料には表れないものですが、総合的な「ヒューマンスキル」です。この印象が、意外と昇進・昇給に左右するんです。

――人柄を見られてる、ってことですか?あまり関係ないように思いますが…

「いい人かどうか」を評価するわけじゃありませんよ(笑)
コミュニケーション力やリーダーとしての資質も含めた、総合的な人間力というか、その人自身の魅力です。
だって、上司や人事担当者から見て好感もてる人間なら、とうぜんクライアントにもウケがいいわけですから。
それに、社内の他の人間にいい影響を与えるかどうか、ということも重要です。

それをアピールするには、やはり熱く前向きなプレゼンでないと。

――では、プレゼンする内容の良し悪しに加えて、熱さが大事ということですか?

そうそう。全く同じ内容のプレゼンを、淡々とやるのと前に乗り出すように熱心にやるのと、どっちが評価されるか考えれば答えは簡単でしょう。全体の構成や説明力などの内容もさることながら、表現力が大事。

その表現のツールとなっているのが声であり、表情・姿勢・動作なんです。

社会人の皆さんには、こういうところをしっかりと磨いてもらいたいですね。

――なるほど。しかし、「プレゼン力」が必要な職場は限られているように思いますが…

昇進・昇給の話から「プレゼン力は大事」と言ってきましたが、プレゼン力は大事というよりも、社会人にとって必須といっても過言ではありません。自分にはプレゼンする機会なんてない、と思うのは大間違いですよ。
大きな会場でたくさんの人の前で、パワーポイントやプロジェクターを駆使しながらやるプレゼンばかりじゃないんです。

実際のプレゼンは、社内での会議だとか、クライアント相手の商談なんかがほとんど。飛び込み営業だってプレゼンです。
極端な話、「忘年会はどこがいいと思う?」と聞かれて「予算・立地・人数でいうと居酒屋Aがおすすめです」と答えるのだってある種のプレゼンでしょう。

これから社会人になろうとする学生の方は、まず第一にプレゼンを学んでおくと、絶対に得をしますよ。身につければ、昇進・昇給の場面以外でも大いに役立ちます。
ビジネスだけでなく、日常におけるコミュニケーション力も向上しますしね。

それに、就職面接も、自分を売り込むプレゼンなんですから。


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