こんにちは、スピーチトレーナー高津和彦(こうずかずひこ)です。
今回は「聞かせる気」の考察です。
先日、ある出版記念パーティに出席した。
乾杯の発声で。
私の知人のAさんが登壇した。
それまでのスピーチが長かったので、すでに皆さん、お疲れ。
まず司会進行役の女性が、
「続きまして、乾杯の発声はA様、よろしくお願いします」と紹介。
一方、会場はざわざわ。静まらない。
プロの司会じゃないので場を制するということまではできない。
Aさん、仕方なくざわざわの中で話し始める。
誰も聞いていない。
ここで少し分析。
まず、「乾杯の発声」をする状況はというと。
誰もが早く乾杯終えて、そして食事に行きたい。
喉はかわいている、腹も減っている、友人と話したい。
つまり「乾杯発声前のスピーチは短くしろ」という気持ちが場に充満している。
が、そんな中、Aさんは、主役ゲストの著書の中で、感銘を受けたところを引き合いに出し、解説し始め、読後感想を言い始めた。
自分はこんなにも感じたと言いたかったんだろう。
ゲストの手前もあり。良いとこ見せなきゃ!もあり。
早く全員で乾杯することを期待していた場。
一旦静かになったが、全員のちょっとした落胆の気が漂った。
感想談がやーっと終わり、ようやく乾杯に。
Aさんの元気のない「カンパイ・・」の第一声よりも、
それを打ち消すかのような全員の堰を切った「カンパ~イ!!」の大発声が印象的だった。
そして食事も中盤に差し掛かり、
お腹も満たされたところで、この会の主催者のスピーチ。
司会者の突然の紹介、
「それではここでスピーチを頂きます、○○協議会のB様、よろしくお願いします」。
誰も聞いていない。
みんな、ほとんど無視状態。
立ったまま2-3人で談笑するグループもいくつか散見できる。
紹介されたBさん、しかたなく、というか場はどうでもよくというか、ぼそぼそ話し始める。
やはり誰も聞いていない。
始まって程なく。
状況を見かねた本日の主役ゲスト、司会のマイクを取って話し始める。
「みなさん~、ちょっと静かにして下さい、私はね・・・」
さすが、ゲスト、老練の直接話法!
誰もが静かに聞き入る。
私語もやめて。
話は2-3分続く。
そして再びマイクを主催のBさんに戻して、話を続けさせると思いきや。
「ということで皆さん今後ともよろしくお願いします!」
あらら、ゲストさん、自分で話を終わっちゃった。
Bさんはバツ悪そうな顔をしてその場を去る。
もう会場の誰も気にしていない。
いや、気にしているかもしれないが、スピーカー本人が去ってしまったので
「あ・・・、そういうことなの?」「もう話されないのね?」
でおしまい。
この情景を見て、僕は思った。
登壇する人は、それなりの覚悟があってマイクを持ったはずです。
こんなことでいいのだろうか?
誰も聞いてくれなくて。
何が問題なんだろうか?
それは「話す気」です。
「気」がない。
聞かせてやろう!、聞いて!の気がない。
司会も、一応紹介はする。
参加者も、一応注目はする。そして、しない人もたくさんいる。
こういう状況は、いつでも、そこここで見かけられます。
しかし、誰も親身になって、あなたの話をみんなが聞くように、フロアを完璧の状況にしてくれません。
(僕が司会なら、完璧に会場を静かにさせてマイクを渡しますが)
あなた自身が、そんな聞き手の状況に対して、目を、耳を、注意を、自分に向けさせなきゃ。
自分の言は自分で聞かせなきゃ。
でなければ、あなたが能力不足だと思われてしまうのです。
でもほとんどのスピーカーは、
「聞いてくれたら良いけど、聞いてくれなかったらしょうがないや…」
という気持ち。
もちろん話す「内容」「組み立て」は大事です。
でも聞いてくれなかったら何の意味もない。
聞かせるのはスピーカーである、あなたの責務です。
それには「聞かせてやろう」の気が要るのです。